本屋をぶらぶらすることの価値

これからの検索エンジンは心理学からのアプローチが必要だと、『次世代ウェブ』で佐々木俊尚氏は言う。

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今までの検索エンジンやアマゾンのウェブサービスは、その人が実行した過去の履歴を分析したデータを元に、ユーザーに情報を提供している。



ただ、そのウェブ上で過去に実行した行為と次に実行する行為の間にあるリアルな出来事を判別する仕組みがないと、思うような結果は取得できないのではないかという。



それについて、具体的にどうすればいいかということは、本書には述べられていないが、このリアルとウェブの相互間の情報連携は充分にありえる話ではないかと思う。



例えば、「ナイキとiPod」の連携。ナイキのシューズに取り付けられたセンサーで、走行距離などの情報がiPodを通じて電子データで記録され、ウェブ上にアップロードすることが出来る。



また、クレジットカードやsuicaなどの記録も電子化されているので、それにより1人1人の行動特性が把握できる。携帯電話の通話記録なんかも、充分履歴として残される。



更には、ユビキタスといわれる、家電製品のネットワーク接続などにより、どのような食材をいつ冷蔵庫から取り出したとか、電子レンジで何を作ったなんていうのも、わかるかも知れない。



個人のプライバシーの保護という問題もあるかと思うが、これらを取りまとめるプラットフォームが出来れば、情報がシームレスにつながる。そうすることで、行動思考や意思決定などを分析することで、心理的な観点からその先の行動を読むことは可能であろう。



もしかしたら、これが「WEB3.0」の姿なのかもしれない。

ここまでユビキタスになると、瞬時に何千人というデータサンプルが集まってくる。それらを分析し、精査することで精度も直ぐに上げることが出来る。



これは、非常に魅力的である一方、偶然性というものが生活になくなってしまう。確実に欲しい情報が検索エンジンで見つかったら、偶然の出会いはなくなってしまうのではないだろうか。



脳というのは、不確実なものに対して刺激される。絶対的な安全はリラックスを生むが、刺激はない。果たして、それが実現した時に、本当に便利なんだろうか。



自分は良く本屋をぶらぶらするが、これは予期せぬ本に出会えるからだ。今のアマゾンでは人気のある書籍や、目的に沿った書籍しか見つけることができない。だから、2週間に1度くらいは、本屋を散歩しなければ、知的好奇心は育たないという恐怖心がある。



もしかしたら、そのように機械的になりすぎている部分に、人間的要素を取り入れるという意味で、佐々木氏は「心理的」というキーワードを使っているのかも。



まあ、ウェブサービスに関わらず、従来の論理的なアプローチが意味をなさなくなっているので、今の世の中は心理学を知らないと、仕事をするのに不便になってきている。



そんな原則を取り上げた一冊なのかとも感じた。





で、個人的にはこの書籍は佐々木氏の書いたものの中で一番好きだ。

ジャーナリストからの視点は、企業側の視点からこの世界を見てしまう自分には、とても新鮮で、更には内容がとてもわかりやすい。



科学的なアプローチが好きな自分には、最初はその視点に抵抗があったが、何冊も氏の書籍を読むことで徐々にその視点に慣れてきたのかも知れない。