1万2千円は景気回復に効果があるのか?
今まであなたが見た鳥が白鳥が全て白かったとしても、それは明日黒い白鳥が出現しないことを保証しないのだ。
ハイエク 知識社会の自由主義 (PHP新書)より
不況というのは、このように突然やってくる。世界は常に不完全。また、本書には表現は違うが、このような一文も。
ダイヤモンドの価値はそれを見つけるための労働力とは比例しない。もし、ダイヤモンドを見つける過程で鉄が見つかったとしても、その鉄に同じ価値がつくだろうか?
経済学には最近はまってきているが結構面白い。上記のような記述の中、「じゃあ、どうしてダイヤモンドの価格があんなに高いのか?」と問われても、そこは人間の心理的な部分なので合理的には説明できない。一見、当たり前のようだが、全てを合理的に説明する思想もあったらしく、このような理由も上記のように労働力などを根拠に説明を試みていたという。
だが、そのような取り組みに新たな考えをもたらしたのは「行動経済学」。ちょっと前に話題になり、自分も興味を持ったジャンル。人は合理的な行動をしていると思っていても、実は合理的ではないというのはとても大事なポイントで、生きるのに必要な水は価値が低くて、特に生きるために必要ないダイヤモンドが価値が高い理由となる。そこで、「水はそこら辺にあり、ダイヤモンドは見つけるのが大変だから」と思った、あなたは間違いらしい。そのように一元的なみかたをすると、冒頭にあげたように、見つけるのが大変な(労働コストがかかる)ものは、価値が高いとは限らないということがわかる。結局は、労働力とは関係ない商品価値であり、そのものがもつ魅力が価格に反映される。
実はこれ、当たり前のようだがそうではない業界もたくさんある。自分が所属しているシステム開発なんかはいい例だ。顧客に請求する額はその完成したサービス価値ではなく、構築にかかる労働コストが主。もちろん選択する側もそこまでアホではないので、自分達が考える価値と比較し選定しているが。一方、最近話題になっているSaaSの概念なんかは、これに当てはまるので全うな流れになりつつあるのかもしれない。
今回の金融危機と同様、突然黒鳥が現れるようなことは、どのサービスにおいても起こりえる。今回の金融バブルは労働の対価ではななくサービスの価値が市場価値以上に引き上げられ膨大したものがはじけた結果。市場の対価にそぐわないサービスは、いつはじけるかわからない。
マーケティング活動は商品などに労働コスト以上の付加価値をつけてその魅力をPRする手段となっている。ただそれが過度になると、どこかの留学斡旋企業のようにお金だけ集めて倒産してしまうことにもなりかねない危険な要素も含んでいる。そういうことを考えると、メーカーは本質的な価値のあるものを創造し、マーケティングはその本質的価値を伝える手段だと改めて気づくことができる。
特にこれから読もうとしているハイエクなんかは、元々心理学者を目指しており、人の行動は必ずしも合理的とは限らないという主旨。組織管理なんかもそうだが、人を徹底して統制することは堅実かもしれないが、想定以上の含みは出てこないのも同様、政府の消費喚起政策も人民の手に委ねる含みがないと、それ以上の景気回復は期待できない(1万2千円を臨時給付してもそれを上回る消費の含みがなくては、1万2千円の範囲の消費に納まることが想定される)。企業組織に対する思考を一回り大きくし国家単位で考えたものが経済学だと考えると、興味を持っていろいろと学べるような気がする。
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