派遣切りとかベンチャースピリットとか

強者と弱者が共存する環境が成り立つのは、強者がリスクテイクしているから。強者がリスクヘッジをしだすと共存自体がなくなる。具体的に言うと、派遣切りなんて正にそうで、これは雇用側がリスクヘッジをする行為であり、一方この時期に採用を増やす企業は将来の景気回復を見込んでリスクテイクしているのではないだろうか。


かつての原油高騰の際も、ギリギリまで食品メーカーがリスクテイクをして価格改訂をしなければ消費者が恩恵を受けることになるが、航空会社のように燃料サーチャージというようなリスクヘッジをすることで、消費者にその影響が降りかかる。


この判断は意思決定の出来る強者が出来るのであり、一般消費者や派遣労働者、または就職活動中の学生に決定権はほとんどない。この度の雇用削減に対する様々なニュースを見ていると、各企業の姿勢が垣間見える。ただ1つ言えることはバブル崩壊時の経験からか、どこの企業も採用ゼロという状況ではないことと、トヨタのように減収でも研究開発には積極的に取組んでいる点。


リスクテイクする企業がなくなり、日本全体の企業が完全にリスクヘッジに走ると、日本の成長も限界が見えてくる。


というのを踏まえて、この不況下自分が属する会社の対応を見ると自社の将来的な成長性が見えてくると思う。このような状況でリスクヘッジするだけなのか、それともわずかでもリスクテイクしながら何とか乗り切ろうとしているか。特にベンチャー企業であれば、リスクテイクをしていないなら、向こう数年は成長する機会がなくなる。また、リスクヘッジを重視するばかりに、力の強いベテラン社員を重宝して力の弱い若手社員に負荷をかけるような状況になっていないか。それも大事な判断指標となる。


一方、同様に考えられる判断指標は「量的ビジネスモデルの崩壊」。自分が一番縁の深いシステム業界もそうだが、人数を増やせば増やすほど売り上げが上がるビジネスモデルは限界が近づいてきている。自動車業界もそうで量のビジネスを追い求めた結果、国内の需要だけではなく海外などへ進出を広げている。しかし、膨れ上がったその体は、今回のように突然の金融危機には直ぐには対応できない。自動車業界の派遣切りはニュースでも取り上げられているが、多重請けがあたり前のシステム業界の2次請け、3次請けで価値ではなく量を追い求めてきが企業はこれから苦しくなるんだろう。


むしろ、任天堂のようなイノベーティブな企業は経営としては浮き沈みが激しく、新しいものが創れなくなったらそれで終わりだが、企業としては健全だと思う。ソニーなんかは今は苦しい状況だけど、かつては新しいものを創造するすばらしい会社だったが、それがなかなか上手くいかないのは、量的な方向へのシフトとの葛藤があるんだろう。言ってみれば、企業の方向性を価値を創造する方向に向かわせるのはリスクテイクでもある。


時折、理想の企業を考えたくなることがあるが、今回の不景気で考えたことは上記のように、新卒採用を絶やさず若手を育てる姿勢がある企業。また、ビジネスモデルも量よりも価値を追い求める企業であること。これは、ほぼ所属する人とその価値の創造に重きを置くベンチャースピリットと同じ。経済の発展はベンチャースピリットがあるからこそなし得るものであり、ベンチャー企業の成長もリスクテイクがあるからこそなし得る。それは、数名からなる企業であっても、数万人を雇っている大企業も同じことだと思う。